Short Story. 8
プレゼント
(Present)

 夜のBritain銀行、の南にある酒場"The Cat's Lair"。
 日々バカ騒ぎの繰り返されるこの酒場、今夜はさらに度が過ぎていた。

「メリークリスマース!」
「聖なる夜に、かんぱーい!」
「べりーくるしみまーす!」
「わはは何いってやがんだこいつぁ〜」
 酔っ払いどもには飲む理由さえあれば良く、例外ではない俺も、しこたま飲んだ。
 いつもは死線を潜り抜ける戦士も、しかめっつらした魔法使いも、もれなくでれでれに酔っ払っていた。
 調子づいた奴がデーモンに化け、店内を闊歩するたび、壁や天井がどかどか揺れる。
 それを見ている店のオヤジも、酔っ払ってへらへら笑ってるから世話は無い。

「暑ぃ。ちょい外いってくるぁ」
 俺は横で飲んでた仲間に声を掛け、揺れる床を踏みしめ外に向かう。
「堀に落ちて、死なないでよね」
「お前は、酒の海に溺れてやがれ」
「あは、それはいいアイデアね。おねーさんワインもう一本ちょうだい〜」


 夜のBritainは、いつもと変らないが、道行く人の顔が、心なしかほころんでるように、見える。
 ・・・酔っ払いが何見た所で、幸せそーに見えるもんだが。

 酒で揺れる体に、夜の冷気が心地よい。

 空を見上げる。
 曇っているのか、今夜は二つ月も星も、闇の中に隠れていた。


 雪が見たい。

 ふとそんな事を思って、ニヤニヤと笑う。
 さすが酔っ払いだ。
 いきなり何を思ったか「雪が見たい」とはな。
 別に、思い出があるわけじゃない。
 そんなロマンチストでもない。
 でも思ってしまったものは仕方が無い。
「雪降らねぇかな」
 ぼそりと呟き、夜空を見上げた。
 
 俺は闇夜を、見上げ続ける。
「・・・?」
 何も無い闇の中に、小さな点が見えた。
 そしてそれは、どんどん大きくなって、、、
「ho-ho-ho-」
なんてこった。
 俺の目の前を、トナカイに引かれた空飛ぶそりに乗って、赤い服のじぃさんが横切ってゆく。
「メリークリスマスじゃ!」
 ありえないはずの、その空飛ぶそりが、俺の近くに着陸する。
 道行く人は、全くそれに反応しない。
 呆然としている俺にそのじぃさんが話し掛けてきた。
「わしはサンタクロース!このトナカイはサンダーメアじゃ。
 おっとこいつに迂闊に近づかん方がええ。何人もの愚か者を、地獄に叩き込んだ強物じゃからの。」
 サンダーメアと呼ばれたトナカイは、鋭い眼光で俺を睨み、不敵な笑みを口元に漂わせる。なかなか迫力に溢れるトナカイだ。

・・・いや、ちょっとまて。

 空飛ぶトナカイ?
 サンタクロースだ?

 俺は酒で濁った頭で考え、、、考えるまでもなかった。

 ちょっと愉快な夢を見るほど、俺は飲んでたって事だ。
 だったら何も驚く事はない。なんせ、こんな夢を見るぐらいだ。

 サンタなんかよりも、酔狂さではこっちが上さ。


「今年一年、いい子にしてたかの坊主」
「はぁ?何言ってやがる。俺はガキじゃねぇ」
「ほっほ。わしから見たら、誰もが子供じゃ」
「傍迷惑な話だ」
「で、一年いい子にしとったのかの?」
 その1トーン落とした声に反応し、サンダーメアが俺を威嚇する。
 角の当りが帯電してるように見えるのは、気のせいだろうか?
「・・・怪物を殺し、敵を殺して、とりあえず生き残った。」
「ほぅほぅ。とりあえず生き残った、か。」
 じぃさんは、その白くて長い髭をさする。
「それは、良い一年じゃったの」
 サンダーメアが同意したのか、重低音な息を吐く。
「・・・」
「そんな坊主に、サンタクロースからのプレゼントじゃ」
 そういって、そりの後ろに積んだ、バカでっかい袋の中から、小さな箱を取り出し俺に渡した。
 その小さな箱は、ご丁寧に赤いリボンでラッピングされてたりする。
「捨ててもいいか?」
「わしは構わんが、こいつがご機嫌斜めになるじゃろうな」
「・・・わかったよ。」
 俺がその赤いリボンを解き、中を開けようとしたその時。

 ポンッ!
 
 小さいその箱は、軽い音と共に煙に包まれた。
 その煙は徐々に拡散し、そして箱ごと姿を消した。
「なんだよこ・・・」
 文句を言おうとした俺を見て、片目を瞑ったじぃさんが、頭上を指差す。

闇に満たされた
その空から。
闇に紛れて、
小さな白が。

はらはらと、
ふわふわと、
雪が、舞う。

 俺は思わず、その白い固まりを見つめる。
 漂うように落ちてきたその固まりを手のひらで受け、その冷たさを感じる。

 夢じゃ・・ない?

 道行く人も、足を止めて夜空を見上げている。
 どうやら、俺だけに見えてる訳じゃないらしい。


「ほっほっほ。望みはかなったかな坊主。」
 じぃさんは、馬鹿でかい袋をごそごそと漁り、血の滴らんばかりの生肉を取り出し、サンダーメアに与えた。
 サンダーメアは、トナカイとは思えぬ食いっぷりで、そいつをがつがつとたいらげた。

「・・・あんた、ナニモンだ?」
「いったじゃろ、坊主」
 白髭を蓄えたそのじぃさんが、にやりと笑う。
「只の、サンタじゃ」

 そしてじぃさんが、手綱を鳴らす。
 サンダーメアはじぃさんを吹き飛ばす勢いで加速し、空高く上ってゆく。
「来年も、いい子にするんじゃぞ坊主〜」
 遠ざかるそのそりは、すぐに雪に紛れて、見えなくなった。


「あ〜、雪だぁ」
 動けずにそこに佇んでいた俺の背後から、仲間の声が聞こえた。
「遅いなぁと思って、堀に落ちて死んでるかと思ったら、雪の中でたたずんじゃって〜」
 彼女はへらへらと笑い、ふらふらと歩いて近づいてくる。
「ろまんちすとだねぇ」
「んなんじゃない」
 すっかり酔いの覚めた俺は、寒くなりつつあるその感覚に、身を震わす。
 空からは、まだ雪が漂い落ちていた。
「・・・よし、ここで呑みなおすか。」
「おぅ〜。」
 


首都Britain
いつもは降らない
その場所に。

この夜だけは、
雪が、舞った。


2003/12/13( in Sakura shard )
wrriten by konayuki( into UO:Sakura shard )