仕事馬鹿ってのは、どの世界にも居るもんだ。特に技術屋には、仕事しかしねぇ馬鹿はごまんと居る。
もちろん、俺もその馬鹿の一人だが。
俺は、ゴーレムを専門に扱う細工師だ。
ゴーレムの製造から修理、メンテナンスまで、一手に行っている。
Minoc近くにある工房が、俺の仕事場だ。
「依頼来たよ〜左肩損傷の持込修理、今日中、大至急で!」
共同経営者の声が飛ぶ。
「おいおい、、肩の動力部パーツ無いの知ってるだろうが。無茶な注文は受けるな!」
俺は仕掛かり中のゴーレムから腰を上げる。
「だって報酬がいいんだし!」
共同経営者である彼女は、隣の部屋で書類の山と格闘しているのだろう、姿を見せずに叫び返した。
「それにあんただったら、動力パーツ作りから始めても、今日中に納品できるでしょ!」
俺は、工房の隅にある時計を見上げた。
ただ今午後3時。
「今日中ってのは、深夜0時までって事か?」
「当たり前でしょ!嘘は付いてないわ。」
やれやれ。
深夜にゴーレムを届けられる客の顔を想像しつつ、動力パーツの作成に取り掛かる。
残り9時間。
並の腕ならゲームオーバーだろう。だが俺には、やれる確信があった。
『今日』が終わるまで、あと5分。
そんな時間に、俺は依頼主の家の前まで来ていた。
辺りは街灯以外の光も無く、しんっ、と静まり返った闇に満ちていた。
依頼主の家は商店なのだろう、窓からは様々な雑貨が覗く。
と、その窓の奥に、ランタンの光が見えた。
姿は良く見えなかったが、大体想像が付く。どうせ欲深そうな小太りのおっさんが、眠そうな顔をして…
「どちら様ですか?」
透明な声。
俺にはそう聞こえた。
薄く開いた扉の隙間から、薄いランタンの灯りに照らされ、若い女性の顔が見えた。
「・・あ、修理の終わったゴーレムを届けに」
「まぁ、ありがとうございます」
彼女は扉を大きく開け、部屋の灯りを付け、俺とゴーレムを招き入れる。
「…どうぞお入りになってください。」
その姿は、小太りのおっさんとは正逆だ。
「無理なお願いをして、申し訳ありませんでした。」
彼女は、受取証にサインを書きながら言った。
「だいぶお疲れの様ですし。何かお飲みになります?」
「いえ」
俺は差し出された受領書を確認した。
「夜も遅いですし、失礼します。」
そして俺は、受領書をバックにしまい、その商店を後にした。
前日がどうであれ、店は9時には開ける。
これは、共同経営者の方のポリシーだ。
俺は眠い体を何とか引きずりながら、工房まで辿り付いた。
「おはよ〜、昨日は大変だったね。」
朝から元気の良い共同経営者が、工房の掃除をしていた。
「お前は、さっさと帰ってただろうが。」
「私がいたって、何も出来ないじゃない。」
眠気で濁った頭では、反論も考えられず、俺はただひたすら苦いコーヒーをすすっていた。
雑巾を干し、ん〜と伸びをした共同経営者が、さりげなく言った。
「ところで昨日の彼女、可愛かったでしょ」
ぶっ!
一気に眼が覚めた。
「んなこと言ってねぇで、さっさと掃除しやがれ!」
「お〜、珍しく慌ててるねぇ。ミャクあり?」
「うるせぇ。」
俺は、地獄の様に苦いコーヒーを飲み干す。
「それに、また修理に来るとも限らんだろうが。」
「へっへ。ちゃ〜んと定期点検の契約も取ってあるのよ。週1で。」
何時の間にか契約書を手でひらひらし、彼女はにまにまと笑っていた。
確かにそれは、整備点検の契約書だ。
「嬉しい?」
「黙れ。仕事だ」
肩をすぼめる共同経営者を残し、俺は工房の奥へと進んだ。
それから俺は、週1であの商店に顔を出すようになった。もちろん仕事で。
点検と整備が一通り終わった後、彼女にお茶を煎れてもらい、しばし話をするようにもなった。
他愛も無い話。
彼女からは、天気や食べ物、流行の店やファッションの話を。
俺は、ゴーレムの作り方や、その中にある仕掛けなどを。
俺には、彼女の話す事は、あまりぴんと来なかった。
彼女もきっとそうだろう。
でも俺は、この時間が嫌いじゃなかった。
「おかえり〜」
商店から工房に戻ると、共同経営者が声を掛けてくる。
「週1の整備点検にしちゃ、妙に帰りが遅いよねぇ。」
「ちゃんと整備するには、これくらい時間が必要なんだ。」
「へぇ〜。他のお客さんと比べたら、全然違うんだけどねぇ。」
その、にまにま笑いはどうにかしろ。
「いいのよ別に。時が経つのを忘れる事もあるしねぇ。」
「うるせぇ。」
俺は工房の奥に行き、ゴーレムの組み立てを再開する。
以前より楽しく思うのは、気のせいだろう。
「結婚・・ですか?」
呆然としてしまった俺とは対照的に、彼女は活き活きと話していた。
いつもの週1点検、その後のお茶の時間。
「えぇ。式の日取りが決まりまして。急なのですが、来週にはムーングロウに引っ越す事になります。」
彼女は嬉しそうに話していた。
「それは、、、おめでとうございます。」
幸せそうな彼女の笑顔が、胸のどこかにチクリと刺さる。
「そうしますと、、ゴーレムもムーングロウに移動になりますね。」
「あ、、えぇ。そうですね…ゴーレムは、彼の知人にお願いする事になるかと。」
落胆が表情に出てしまったのか、彼女が慌てた。
「ごめんなさい。わざわざ来て貰っているのに、直前までお伝えする事ができなくって。」
「……いえ、事情は分かりました。」
俺は、顔を上げ、席を立った。
「長い間のご契約、ありがとうございました」
扉の前まで送ってくれた彼女に、出切る限りの笑顔を作る。
「それでは…お幸せに。」
「はい。」
彼女もまた、極上の笑顔を見せてくれた。
「んで何!そのまま帰ってきちゃったわけ?!」
夜の酒場。
仕事上がりの俺と共同経営者は、夜の酒場で飲んだくれていた。
「あんた彼女が好きだったんでしょうが!」
「好きも嫌いも無い。仕事だ。」
「建前なんてどうでもいいのよ。あんた結局、何も伝えずに終わったわけ?」
「だったらあれか?あの場で告白しろと?結婚まで決まってる相手にか?」
俺はエール酒を煽る。
「できるわけねぇだろうが。」
周りの喧騒が、妙に耳に障った。
黙る俺を見て、共同経営者が溜息をついた。
「まぁ、そんなに落ち込まないでよ。ここに私が居るじゃない。」
「お前は、にまにま笑いが嫌いだ。」
そう聞くと、彼女はつんと済ました顔をした。
「これでどうかしら?」
「…スマン訂正。にまにま笑いの方がマシ」
そして二人して、大笑いした。