Short Story. 10
ある技術屋の話
(an engineer.)

 仕事馬鹿ってのは、どの世界にも居るもんだ。特に技術屋には、仕事しかしねぇ馬鹿はごまんと居る。
 もちろん、俺もその馬鹿の一人だが。
 俺は、ゴーレムを専門に扱う細工師だ。
 ゴーレムの製造から修理、メンテナンスまで、一手に行っている。
 Minoc近くにある工房が、俺の仕事場だ。
「依頼来たよ〜左肩損傷の持込修理、今日中、大至急で!」
 共同経営者の声が飛ぶ。
「おいおい、、肩の動力部パーツ無いの知ってるだろうが。無茶な注文は受けるな!」
 俺は仕掛かり中のゴーレムから腰を上げる。
「だって報酬がいいんだし!」
 共同経営者である彼女は、隣の部屋で書類の山と格闘しているのだろう、姿を見せずに叫び返した。
「それにあんただったら、動力パーツ作りから始めても、今日中に納品できるでしょ!」
 俺は、工房の隅にある時計を見上げた。
 ただ今午後3時。
「今日中ってのは、深夜0時までって事か?」
「当たり前でしょ!嘘は付いてないわ。」
 やれやれ。
 深夜にゴーレムを届けられる客の顔を想像しつつ、動力パーツの作成に取り掛かる。

 残り9時間。
 並の腕ならゲームオーバーだろう。だが俺には、やれる確信があった。


 『今日』が終わるまで、あと5分。
 そんな時間に、俺は依頼主の家の前まで来ていた。
 辺りは街灯以外の光も無く、しんっ、と静まり返った闇に満ちていた。
 依頼主の家は商店なのだろう、窓からは様々な雑貨が覗く。
 と、その窓の奥に、ランタンの光が見えた。
 姿は良く見えなかったが、大体想像が付く。どうせ欲深そうな小太りのおっさんが、眠そうな顔をして…
「どちら様ですか?」
 透明な声。
 俺にはそう聞こえた。
 薄く開いた扉の隙間から、薄いランタンの灯りに照らされ、若い女性の顔が見えた。
「・・あ、修理の終わったゴーレムを届けに」
「まぁ、ありがとうございます」
 彼女は扉を大きく開け、部屋の灯りを付け、俺とゴーレムを招き入れる。
「…どうぞお入りになってください。」
 その姿は、小太りのおっさんとは正逆だ。
「無理なお願いをして、申し訳ありませんでした。」
 彼女は、受取証にサインを書きながら言った。
「だいぶお疲れの様ですし。何かお飲みになります?」
「いえ」
 俺は差し出された受領書を確認した。
「夜も遅いですし、失礼します。」
 そして俺は、受領書をバックにしまい、その商店を後にした。


 前日がどうであれ、店は9時には開ける。
 これは、共同経営者の方のポリシーだ。
 俺は眠い体を何とか引きずりながら、工房まで辿り付いた。
「おはよ〜、昨日は大変だったね。」
 朝から元気の良い共同経営者が、工房の掃除をしていた。
「お前は、さっさと帰ってただろうが。」
「私がいたって、何も出来ないじゃない。」
 眠気で濁った頭では、反論も考えられず、俺はただひたすら苦いコーヒーをすすっていた。
 雑巾を干し、ん〜と伸びをした共同経営者が、さりげなく言った。
「ところで昨日の彼女、可愛かったでしょ」
 ぶっ!
 一気に眼が覚めた。
「んなこと言ってねぇで、さっさと掃除しやがれ!」
「お〜、珍しく慌ててるねぇ。ミャクあり?」
「うるせぇ。」
 俺は、地獄の様に苦いコーヒーを飲み干す。
「それに、また修理に来るとも限らんだろうが。」
「へっへ。ちゃ〜んと定期点検の契約も取ってあるのよ。週1で。」
 何時の間にか契約書を手でひらひらし、彼女はにまにまと笑っていた。
 確かにそれは、整備点検の契約書だ。
「嬉しい?」
「黙れ。仕事だ」
 肩をすぼめる共同経営者を残し、俺は工房の奥へと進んだ。


 それから俺は、週1であの商店に顔を出すようになった。もちろん仕事で。
 点検と整備が一通り終わった後、彼女にお茶を煎れてもらい、しばし話をするようにもなった。
 他愛も無い話。
 彼女からは、天気や食べ物、流行の店やファッションの話を。
 俺は、ゴーレムの作り方や、その中にある仕掛けなどを。
 俺には、彼女の話す事は、あまりぴんと来なかった。
 彼女もきっとそうだろう。
 でも俺は、この時間が嫌いじゃなかった。
「おかえり〜」
 商店から工房に戻ると、共同経営者が声を掛けてくる。
「週1の整備点検にしちゃ、妙に帰りが遅いよねぇ。」
「ちゃんと整備するには、これくらい時間が必要なんだ。」
「へぇ〜。他のお客さんと比べたら、全然違うんだけどねぇ。」
 その、にまにま笑いはどうにかしろ。
「いいのよ別に。時が経つのを忘れる事もあるしねぇ。」
「うるせぇ。」
 俺は工房の奥に行き、ゴーレムの組み立てを再開する。
 以前より楽しく思うのは、気のせいだろう。


「結婚・・ですか?」
 呆然としてしまった俺とは対照的に、彼女は活き活きと話していた。
 いつもの週1点検、その後のお茶の時間。
「えぇ。式の日取りが決まりまして。急なのですが、来週にはムーングロウに引っ越す事になります。」
 彼女は嬉しそうに話していた。
「それは、、、おめでとうございます。」
 幸せそうな彼女の笑顔が、胸のどこかにチクリと刺さる。
「そうしますと、、ゴーレムもムーングロウに移動になりますね。」
「あ、、えぇ。そうですね…ゴーレムは、彼の知人にお願いする事になるかと。」
 落胆が表情に出てしまったのか、彼女が慌てた。
「ごめんなさい。わざわざ来て貰っているのに、直前までお伝えする事ができなくって。」
「……いえ、事情は分かりました。」
 俺は、顔を上げ、席を立った。
「長い間のご契約、ありがとうございました」
 扉の前まで送ってくれた彼女に、出切る限りの笑顔を作る。
「それでは…お幸せに。」
「はい。」
 彼女もまた、極上の笑顔を見せてくれた。


「んで何!そのまま帰ってきちゃったわけ?!」
 夜の酒場。
 仕事上がりの俺と共同経営者は、夜の酒場で飲んだくれていた。
「あんた彼女が好きだったんでしょうが!」
「好きも嫌いも無い。仕事だ。」
「建前なんてどうでもいいのよ。あんた結局、何も伝えずに終わったわけ?」
「だったらあれか?あの場で告白しろと?結婚まで決まってる相手にか?」
 俺はエール酒を煽る。
「できるわけねぇだろうが。」
 周りの喧騒が、妙に耳に障った。
 黙る俺を見て、共同経営者が溜息をついた。
「まぁ、そんなに落ち込まないでよ。ここに私が居るじゃない。」
「お前は、にまにま笑いが嫌いだ。」
 そう聞くと、彼女はつんと済ました顔をした。
「これでどうかしら?」
「…スマン訂正。にまにま笑いの方がマシ」
 そして二人して、大笑いした。


2004/03/27( in Sakura shard )
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