Two Adventurers Stories. 5
剣技
(Swordsmanship)

 ここはブリティン北の鍛冶屋。
 一人の老人が呆れていた。
「よくもまぁここまでひん曲げたもんだ。」
 一人の剣士も呆れていた。
「じーさんまだ生きてたのか。」
 剣士の手には、見事に折れ曲がった剣があった。
 彼はそれの修理にここまで来ていた。

「よぅ若造。どうしたらここまで曲げれるのか、この老いぼれに教えてくれんかの。」
 俺は、若造と呼ばれた事に顔をしかめたが、しぶしぶ答えた。
 依頼を受け、北極に行った事。
 WhiteWyrmと戦った事。
 そしてその時に、折れ曲がった事を。
 折れ曲がった剣を手に、老人はふんふんと聞いていたが、
「剣を曲げるようじゃ、まだまだ修行が足らんようじゃな。」
と厳しい一言を返してきた。
「昔のわしなら、ドラゴンの10匹や20匹は・・」
「じーさん昔話は無しだ。」
「・・・まぁいい。1000gpで修理してやろう。」
「えらく高いな!」
「普通ここまで曲がった剣を、修理するやつはおらん。他を当るか?」
 たしかにそうだ。
 俺はしぶしぶ、修理代金を払った。
「それじゃあ明日になったら取りに来い。しっかり治してやる」


「やぁ!」
 彼女の激が飛ぶ。
 槍に見立てた棒で俺を攻撃するが、避ける俺を捕らえる事はできていない。
 ここは宿屋の裏。
 彼女の戦闘訓練。
 いつもはローブの彼女も身軽なシャツに着替え、俺と模擬戦闘をしてる。
 普段はWizard'sHatに隠れた彼女の髪が舞う。
 栗色の髪の揺れる様子は、馬のしっぽに似ていた。
 ・・あぁだからポニーテールって言うんだ。
 そんなとりとめの無い事を考えながら、彼女の攻撃をさばく。
 ・・踏み込みすぎだ。
 俺は彼女の繰り出した棒を軽くつまみ、ちょいと引っ張った。
「あっ」
 バランスを崩した彼女は、あっけなく転んだ。
「前に出すぎ。」
 俺は彼女に手を差し出し、立ち上がらせた。
「重心崩すのは、基本の型がなってないからだ。素振り500回」
「えー」
 ちょっと上目使いにこっちを見ていた彼女も、しぶしぶ素振りを始めた。

 彼女の素振りに暫く口を出した後、俺自身も素振りを始めた。
 何万回と繰り返した、基本の型を。
『お前は力はあるがバカだからな』
 師匠の言葉が思い浮かぶ。
『だから考えるよりも、速く動け』
 確かにそうだ。
 俺は無心に、木刀を振り続けた。


 翌日。
 ブリティン北の鍛冶屋。
 俺は修理された剣を受け取り、
「・・・」
呆れていた。
 剣は、少し肉厚になり、少し質量が増し、 そして少し、青くなっていた。
「じーさん、、俺は強化を依頼した覚えは無いが?」
「あんだけ曲がったやつは、普通にやっても強度が保てん」
 老人はにやりと笑い、
「いい仕事じゃろ?」
とうそぶいた。
 確かに、良い仕上がりだ。
 数回振ってみるが、増えた重みも気にならない。
 その様子を満足そうに見つめていた老人が、愛用のDouble Bladed Staffを手に取りすっくと立ち上がる。
「なんなら、相手になってやろうか?」
「また妙な武器を使ってるな。」
 老人の手にあるのは、棒の両端に刃が取り付けられた、最近開発された槍だ。
「なかなか良いぞ?」
と老人が、いきなり動いた。
 突き出されたその槍を慌ててさばく。
 一度距離を取り、上段から剣を打ち込む。
 老人は片方の刃でそれを受け流し、そのままもう一方の刃で俺の首を、、、
「!」
 慌てて首を反らす。
 皮一枚切られた首から血がにじむ。
「しゃれになってねぇぞ じじぃ!」
 老人はほっほっほと笑う。
「訓練は真面目にやれと、昔から言っとるじゃろ。」
 老人の目が、すっと細くなる。
 ・・そうだ、このじじぃはこーゆー奴だ。
 鎧を脱いで来たことを後悔した。
 老人の体がふらっと揺れたかと思うと、懐に飛び込んできた。
 慌てて横に動くが張り付かれ、至近距離から腹に一撃食らう。
 わざわざ裏打ちするのが憎たらしい。
 腹を押さえてうずくまる俺の頭上から、老人の声が降る。
「攻め方を考えるほど賢く無いだろ若造。」
 老人は槍をくるくると回す。

「だから考えるよりも、速く動け」

 確かにそうさ!
 俺はうつ伏せの状態から跳ね上がり奇襲をかける。
 老人は予定通りと言わんばかりにひらりとかわすが、さらに追い討ちをかける。
 肉体の反応するままに剣を振るう。
 さばかれてもそれ以上のスピードで追う。
 何万回と繰り返した基本の型が、体を導く。
 体がどう動くのかを、頭は感じ取るのみ。
 剣の重さが無くなってゆく。
 剣との一体感を感じる。

 流れを生かし、
 勢いを生かし、
 止ること無く、
 淀むこと無く、
 剣と舞う。

 俺の剣をさばいた老人がもう片方の刃で俺の首を狙う。
 そんなものは叩き落し老人の肩を狙う。
 動きの止ったかに見えた老人はそれを半身で避ける。
 避けると同時に老人の槍が下から振り上げられる。
 俺は横に移動しながら下に流れていた剣で槍を下から弾く。
 勢いの付きすぎた槍が一瞬空中で止るのを見逃さない。

 剣が槍を捕らえ、
 老人の手から、
 弾き飛ばした。

「そうじゃそうじゃ。」
 剣の重みが手に戻る。
 俺は弾き飛ばした姿勢のまま、ぜぇぜぇと肩で息をしていた。
 老人は顔色一つ変えず、ひょこひょこと槍を拾いに歩く。
 ・・ 化け物め・・
 俺の思いと無関係に老人がしゃべる。
「単純な事じゃ。切られる前に切る。殴られる前に殴る。あたる前にあてる。」
 老人がにやにやと笑いながら続ける。
「バカなお前さんでも分かる事じゃろ?」
「悪かったなバカで」
 何とか息を整え、老人と対峙する。
「基本の訓練だけは、しっかりやってたようじゃの。」
「あぁ、バカだからバカみたいやったよ。あんたに言われた通りにな。」
「ほっほ。ひがむな。」

 老人はすっと背を伸ばし、真剣な表情になる。
「お前さんの調整も、これで終りだ。」
 老人は体の前に槍を立てる。
 騎士団の敬礼。
 俺も反射的に剣を立てるが、柄じゃない事に気付き慌てて止める。
 それを見た老人が、にっと笑う。
「さらばだ。わしの最後の弟子よ。」
「あぁ、またな」
 俺はそう言い残し、師匠の前から立ち去った。


2003/06/30( in Sakura shard )
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