Two Adventurers Stories. 6
深き森
(Deep forest.)

 湿気った空気。
 足元で水が跳ねる。
 深き森の湿地帯。
 俺は剣を構え、背中で相棒の魔法使いを感じる。
 彼女も背中合わせの状態で、槍を構える。
 俺達を、10匹近くのリザードマンが取り囲んでいる。
 こいつらだけでは済まないだろう。更に来る気配がする。
 彼女の呼吸が荒い。
 そろそろ限界だ。

「抜けるぞ」
 彼女が頷く気配。
「In Jux Hur Ylem」
 彼女の召還したBladeSpiritsに、輪の一部が乱れる。
 俺はそこに突っ込み血路を開く。
 彼女がそこを走り抜け、俺も続く。
 背後からトカゲどもの追撃が迫る。

 深き森は薄暗く、
 滴る湿地は足を取り、
 行く手を妨げる。
 ここは、やつらのテリトリーだ。
 ここから抜け出さないと、俺達は、負ける。

 木々の向こう側が開けてきた。
 地面が固くなり、沼地が終わる。
 ここでいいだろう。
「FireFieldを出したら、木の陰に隠れてろ」
 肩で息をしている彼女に言う。
「、、でも、、、、」
「任せろ」
 そう言った俺は、後ろを向きトカゲどもの様子を見る。
「早くしろ!」
 慌てた彼女の詠唱が響き、目の前に炎の壁が現れる。
 突然現れた炎に、トカゲどもが混乱する。
 逃げ出す奴、
 炎を前に佇む奴、
 そして果敢にも炎を越えた奴は、俺が剣で薙ぎ倒した。

 数匹を餌食にした所で、トカゲどもも気付いたらしい。
・・そうだ、この炎が、お前達の死線だ。
 深呼吸をし、荒れた息を落ち着かせる。
 トカゲどもは、もう迂闊に炎を越えて来ない。
 そんな奴等の背後から、ひときわデカい奴が、仲間を蹴散らしながら現れた。
 2回りほど大きな体と、頭の羽飾り。
 リーダー格か。
 そいつは炎の向こうから、こちらを伺い、目を細める。
 ・・笑った?
 奴は何も無いかの様に炎を越え、悠然と俺の前に立つ。
 一騎打ちって事か。
 いいだろう、と俺は心の中で呟く。
 その心意気に応じ、
 全身全霊を持って、
 お前を倒してやろう!

「キシャー!」
「うぉぉぉぉ!」


 深き森。
 夜の闇が充ちる。
 リザードマン達を蹴散らした頃には、もう日が落ちていた。
 俺達は開けた場所を探し、そこにキャンプを張った。

 暗闇の中に、柔らかい光が広がる。
 俺達は倒れた木に座り、寄り添って暖を取る。
 俺はふと、昔の事を思い出した。

 出合った時の事を。
 ダンジョン深部。
 火の向こう側で、
 怯えていた彼女は、

 今は横にいる。
 彼女は横で、リザードマンから巻き上げたリュートを爪弾いている。
 とは言っても、まともな音楽にはならない。
 ただ音を鳴らして、楽しんでいるだけだ。

 深き森に、安っぽい音が広がる。
 そんな音でも、心地よかった。

「♪〜」
 と突然、"音楽"が聞こえてきた。
「お。弾けたのか?」
「えっ、私じゃない...」
 柔らかい、リュートの音楽が広がる。
 反射的に剣を掴み、辺りを伺う。
「誰だ出てこい!」
 俺の叫びに応じて、木々の闇から男が出てきた。
「こんばんわお二方」
 男はそう言い、手に持ったリュートを鳴らす。
 あまりに、のんびりした雰囲気。
 俺は馬鹿らしくなり、剣を置き座った。
「近くに行ってもよろしいですか?」
「あぁ、かまわんよ」


 男は吟遊詩人だと名乗った。
 彼女の爪弾いた音に引かれて来たらしい。
 彼女のリクエストで、吟遊詩人が物語を、語りだした。

 それは、
 土の精霊の物語。
 自由を夢見て、
 自由を得て、
 自由を奪われる、
 少し悲しい物語。

 吟遊詩人は、柔らかに曲を奏で、淡々と語る。
 気付くと、俺の肩にポニーテールの頭を乗せ、彼女が眠っていた。
 今日はハードだったからな・・・

 それは、
 最後の夢。
 仲間との最後の宴。
 目覚めるまでの、
 儚い一夜。

・・・っは、
 少し眠ってしまった。
 見ると、吟遊詩人が語り終えていた。
「いかがでしたか?」
「心地良かったよ。眠ってしまうぐらいにな」
 俺達は少し目を交わし、ふっと笑った。

 ぱちぱちと、火のはぜる音がする。
 何を言う訳でもなく、俺は火を見ていた。

「まるで、、子犬のようですね。」
 吟遊詩人が、彼女を見て話す。
「かもな」
 俺は苦笑する。
 あの時の事は、彼女のトラウマになっているのかもしれない。

 初めてのダンジョン、
 初めての冒険、
 初めての仲間達の、
 裏切り。

 でも俺に、
 出来る事は無い。

 どうすれば良いのか、
 分からない。

ただ、一緒に
居てやるだけだ。

「で、貴方は、どうなんですか?」
 いきなり俺を見つめ、吟遊詩人が問う。
 その目が、容赦なく俺をえぐる。
「貴方は彼女を、どう思ってるのですか?」
 吟遊詩人の目から逃れられない。
 どう思ってるのか、、、
「さぁな」

 考えた事も無かった。
 分からない。

 俺は、
 どうしたいんだろう。

 吟遊詩人は俺の答えに「ふぅん」と呟き、再び物語を語りだした。
 俺はそれを聞き、意識がぼんやりと・・・・


「・・て」
 ひたすら眠い。
「・きて」
 誰かに揺さぶられ、
「起きてよ!」
 目を開く。
 深き森は、薄暗い。
 彼女が必死に、俺を揺さぶっていた。
「これを見てよ!」
 彼女は高級そうなリュートと手紙を出す。
 あれ、こんなリュートだったかな・・・
 そんな事を思いながら、手紙を開く。

『上手くなるには、ちゃんとした楽器を使いましょう』
 書いたのは、昨日会った吟遊詩人か。

『お代として、金貨は預かっていきます』
 ・・・なに?
 俺は慌てて、自分のカバンを漁る。
 トカゲどもから巻き上げた金が、無い。
「あの野郎・・・」
 俺は手紙をぐしゃぐしゃに丸め、投げ捨てる。


 朝。
 深き森に、
 声が響く。

「何が吟遊詩人だ!」


2003/08/02( in Sakura shard )
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